輪廻
秋も深まるこの時期に、庭の木の葉掃除を双子が引き受け小一時間。
隅から掃く彩斗と中央から大雑把にホウキを振り回す勢いで掃除してゆく熱斗が。彼らは、たまにの休日に帰ってくる父、祐一郎の為に一生懸命になって家事を手伝っている。というのも、たまにしか帰って来ない父に一番寄り添いたいと思っている母、はる香の為でもある。いつも自分達を支えてくれる母に少しでも恩返しが出来たら、と密かに思っているのだ。
「こっちは終ったよー。彩斗兄さんはー?」
熱斗が中央に木の葉を集め切り。
彩斗も塵取りを使用して大抵の木の葉は一掃してきた。少々温かくなった体をゆっくり動かして中央に纏められてある木の葉の上に集めてきた塵取りの中にある葉を流して重ねる。
庭の中央にはひとつの山ができた。
「これで、終り。じゃっ、…燃やそうか」
「うん。……あっ」
ついでだから、これも焼こうよ。
ポケットから出した薩摩芋。どうやら焼き芋にして食べようとしているらしい。熱斗はニカッと笑い早速、葉の中心の奥まで芋を入れて火を点けた。点けた瞬間パチパチ、と言う音がして点火した事が分かる。
「早く焼けないかなぁ」
「熱斗…。焼き芋目当てじゃないんだから…」
「えーっ…違うの?木の葉集めて焼き芋するのが目当てだとばかり…」
「あのね……」
軽い溜め息のあとに苦笑して。
彩斗は縁側に座って待つよう促した。秋の空を眺めるのが好きだ、と言っていた彩斗は上を向きイワシ雲を眺めている。連なっている幾つもの雲の群れが綺麗で見惚れていた。そんな彩斗の表情を横にいる熱斗もまた同じように綺麗だ、と思う。白く透ける肌はガラスのように壊れそうで、脆くて。突いただけでも崩れそうな存在だと思った。その事を話すと彩斗は決まって怒る。自分を対等に見て居ない言い方はやめて欲しい、と。それでも熱斗は彩斗を大事に思う事に変りは無かった。
同じ血を分けた彼が。
病に倒れた時には泣きそうになって、自分に何も出来ないのか…と悔いた日もある。それでもいつまでも諦めなかった彩斗の強い心と、熱斗の彩斗への想いが実り。ここまで普通の生活を送れるまでになった。彩斗と熱斗の絆はどこまでも繋がっており切れる事も無い。永遠に切れる事の無い兄弟の絆。
その絆をいまでも嬉しい、と感じる。
けれど、…もし。もしも…自分達が兄弟に生まれなかったら。もしも、異性同士に生まれていたのなら、どうなっていたのだろう。そう思うときがある。同じ国に生まれて、同じ時をきざんで。そして出合って、恋をしたのだろうか。もしも恋に落ちたのなら、恋人同士になって結婚して。そして2人の間に子供が出来て…。
熱斗は考えている間、自分がどんな顔をしているのか分かって居ない。
彩斗が熱斗の顔を見て「またトリップしてる」と溜め息を吐き、指先を尖らせて居たことにも気がついては居ない。だから、つい突拍子もない声がでるもので。
………つん、つん。
………ぷに、ぷにに…。
………ぐり、…ぐりり…。
「!?い、…痛い!…痛いよ、彩斗兄さんっ…何してるの!?」
頬を突かれたり、摘まれたり。
果てには両頬を引っ張られそうになっていた。慌てて指先を離すと、むすっとした彩斗がいる。何かを考えていた事は見通しされていると、気がつき熱斗はギクリとするが。それでも引き下がれない。そんな熱斗に彩斗は首を傾げて不機嫌そうに言葉を紡いでゆく。
「まぁた変な事、考えてたでしょっ」
「!……そ、…そ…んな事は無い…よ。……あは、は…っ」
「僕に嘘は通じないからね。分かってるでしょ?」
「………。……怒らない…?」
「………。……多分」
「えーっ!」
「嘘、嘘。…怒らないよ」
もう、彩斗兄さんの意地悪!
熱斗は腕の裾を掴んで、ぅわぁん…と声を上げた。その間にも芋の焼けてくる良い匂いがしてきており腹の虫を誘い出し始めている。彩斗は熱斗に、しがみつかれて苦笑しつつも拒んで居ない。むしろ包み込むようにして熱斗の頭を撫でた。その仕種ひとつひとつに熱斗の悪戯心が刺激されて、つい。不意に近づく気配を察知したが、すでに遅かった。顔に影ができて「ぁ」と声を上げようとした瞬間に柔らかく重なった唇。秋の空気に乾燥した唇が、かさかさしている。潤いを求めてチロリと出された舌先にピクンと小さく反応した体。火照り出した脳と、肌が人恋しさを求め出し始めた。
「……こう、いう事……良く平気で…っ」
「おかえしだよ。やられてばかりじゃ、男が廃るからね!」
「……馬鹿…熱斗…」
「………もっと、……する…?……彩斗兄さん」
「!!!馬―――」
「俺、ちょっと本気…」
「……っ」
触れていた指先が腕を掴んで引寄せる。
逃さない強い瞳に見詰められて動けなくなった。熱斗の唇が逃げようとする彩斗の唇を追いかけて塞ごうとする。押しのけようと手の平を胸板に乗せれば、その手も熱く包み込まれた。逃げられそうにも、ない。彩斗は顔の近さに目を閉じようと、した。
「斗―――…熱っ」
「…兄さ」
ぐぎゅるるる…。
唇が掠めた時、熱斗の腹の虫が限界を超えたようだ。
あまりの音の大きさに掠めた唇が、止まる。そして次の瞬間こらえきれなくなったように彩斗の笑い声が木魂した。
「あははっ…、…熱……熱斗…ッ」
「………。」
「ふふ…っ、……ぁはは…っ」
「何も……そこまで笑わなくてもイイじゃんかぁ…」
「だって…っ、…タイミングが良すぎて……っ」
未だに笑っている彩斗を見て「ちぇ〜」と言い些か拗ねる。
秋の空は無情にも熱斗の心とは裏腹に体を正直者とさせている。少々おちこみかけていた熱斗を「ごめん、ごめん?」と笑いを堪えて宥めた。ポンポン、と頭を叩くとジッと見詰め返してくる同系色の瞳。すこし真剣な光を宿した眼差しがそこにあった。こういう時は、ちゃんと話を聞いて欲しい時の目。彩斗は口を閉ざして熱斗の言葉を静に待つ事にする。すると、しばらくしてポツリと言葉が漏れた。
「考え事。……俺と彩斗兄さんがもし……兄弟じゃなかったら、って」
「……?……熱斗」
「もしも、同じ時代に兄弟じゃなくて……男と……女に生まれてたらって。…… そしたら出合って……恋人同士になって……結婚して、……子供…いて」
巡り巡る思考に、熱斗は目を耀かせた。
その瞳の耀きに彩斗は言葉を無くす。あまりにも強く、綺麗な光を放つ眼差しだと思った。
言葉の内容も勿論理解できる。そして熱斗の真意も。だからこそ、自分も真剣に応えなくてはならないと思った。
彩斗は熱斗の言葉に続くように目を柔く細め。
そして折り重なるように手を添え、熱斗の手を包み込んだ。肌から伝わる気持ちは届いたのだろうか。熱斗が小さく息を飲む。
「……うん」
「……彩斗…兄さん」
「解るよ。熱斗の言いたい事」
そのまま続けて、話を聞かせて…?
しっかりと握られた手は離れる事無く繋がれたままで。そして、もう一段の力を加えて握られた手。互いの想いが流れ込んでくるように指先同士が絡まった。そして見詰める瞳には互いの顔しか映らない。2人の周りの景色が時をとめたような錯覚に陥る。誰も邪魔できない2人だけの空間。
「もしも生まれ変われるなら。……又、出会える事が出来るなら。今度は結婚できる男と女がいい。そして彩斗兄さんと、ずっと一緒に暮らしたい。……生まれ変わっても彩斗兄さんと一緒にいたい!」
また彩斗兄さんと逢いたいんだ!
離れ離れになる淋しさや悲しさを。切実に訴えられて戸惑うのかと思えば、そうでもなかった。言われた彩斗は待っていたように優しく微笑み、また近づく顔の距離。息が掛かりそうな程の近さに胸の鼓動が高鳴った。
「僕も生まれ変わっても、また熱斗に逢いたいよ…」
「――!…彩斗兄さ」
「でも。……熱斗と少し違うのは。……また生まれ変わっても兄弟で逢いたい」
「……え」
「それはね…?」
兄弟は生まれたときから、ずっと一緒で。
家族は一生はなれることはないと思うから。
優しく優雅に流れる言葉ひとつ一つに重みを感じる。
そして真意を悟った熱斗はハッとして、彩斗を見る。きっと根底にある「共に在りたい」と願う気持ちは同じなのだ。彩斗は、またニコリと頬を緩ませて熱斗の瞳の奥を覗き込み。絡ませた指先を、もっと深く。より一層ひきよせ掴んだ。
「だから、また兄弟がいい。姉妹とかでも良いけど、お嫁に行く…とか面倒だから」
そう言ってクスリと笑い、そっと重ねた唇。
驚きと、嬉しさと。そして重なった気持ちに震える心。
自分だけが、思っていた事ではないと実感できて涙がでそうになる。けれど、ここで泣いてしまっては、また彩斗に馬鹿にされそうで。熱斗はグッと堪えてヘヘへ、と無理に笑顔を向けた。その笑顔が妙に子供らしくなくて彩斗も苦笑する。こんな笑い方もできるのだと感心しているらしい。自分達は、きっと離れ離れになる事を許されない存在なのだ。きっと、そうに違いない。そう思いながら、静に重ねた唇が音を立てず幾度か行われた後。熱くなった体を持て余して、囁きかける。今なら何でもいえそうな気がするので。
「彩斗兄さん。…俺達ずっと一緒だよ?」
「………うん。ずっと、…ずっと…ね」
「本当に本当だよ?……彩斗…兄さん」
「うん。…本当。……本当に本当だよ」
「やった…!」
「熱斗ってば…」
苦笑しながら絡んだままになっていた手を握る。
そして同じく力強く握り返された手先。そして苦笑しつつも、熱斗の言葉の語尾があまりも強かった為、照れながら言ってみる。まさかとは、思うけれど。
「なんだか、告白された気分」
あはは、と笑い飛ばした。
そして同じく笑い飛ばしてくれるだろうと思って待っていたのだが、その反応がかえってこない。それどころか、真剣な表情になりグイと近づく体。また体温が上昇してゆくのが分かる。
「そのつもりだけど」
「……え」
「俺、真剣に彩斗兄さんに告白してる」
「……そ、…そんな…」
「俺じゃ……やだ…?ずっと、ずっと一生傍にいるの、…俺じゃ…嫌?」
「!――そんな事ないっ。……そんな事…ないよ」
「兄さん…」
「僕も、一生傍に……ずっと傍に居たいよ」
「……えへっ。……ありがと!…彩斗兄さん…」
好きでいるから。
ずっと、ずっと離れず傍にいるからね。
吐く吐息が呑まれて重なり。
そして小さく笑いあって、また折り重なる。幾度目になるのか分からない程の口付けに酔い、 そして溶け合う体が火照り出し。求め合うまま流れそうになるのを止めたのは彩斗で。
そして、また苦笑しながら交わった視線。頬に差した赤みが心の高鳴り具合を表している。
「これからも、宜しくね。…彩斗兄さん」
「こちらこそ、宜しく。…熱斗」
「……うん」
「……うん」
そして再び閉じられてゆく瞼に降る爽やかな秋の風。
そっと風が攫った口付けは、またとろけるように仄かに甘さを含んでいた。
秋の深まりに、2人の絆も深まったらしい。
生まれ変わっても、また逢いたい。
そう願う心が鰯雲の連なりに届いたのか、いつまでも重なっていたという。
END
美月さくら様よりサイト開設一周年記念SSをいただいてしまいました! 萌キュンシーンの連続でドッキドキ♪ そして切なさMAXで狂おしいくらい愛おしい兄弟に 胸の高鳴りが治まりません><// 儚い運命を背負いながらも いつまでも いつまでも二人が一緒でいられたら… そう思わずにいられません そして 叫ばせてください
彩斗兄さ〜〜〜ん! 大好きっ><
美月さまの紡ぎだすスゥィートな兄弟に想像が膨らみますv 本当に素敵な物語をありがとうございましたvvv (土下座 |